命がけの潜入大作戦

GW真っただ中、その日は朝から天気が良く初夏を思わせる陽気でした。
夫はいつもの休日と同じ10時過ぎに起床して朝食を済ませると、おもむろに出かける支度を始めたのです。
車にサーフボードを積み入れ、リビングで手足の爪を切っていました。
”海に行くつもりかぁ・・・”
そう言えば結婚前、よく私を連れて海に行ったことを思い出しました。
夫は何もない灼熱の砂浜に私を残し、自分の波乗り姿を見せるのが大好きでした。
時刻は午前10時45分。
浮気メールの主宅まで車で10分程と考えると11時に待ち合わせか・・・。
そう確信した私は”今日しかない!”とばかりにデジカメと携帯電話を手に車の荷台にもぐり込みました。
そしていつも積んでいる車のほこりよけカバーを頭からすっぽりとかぶり息をひそめていました。
どの位の時間が経過したのか、あまりの暑さで汗が滴り落ち、次第に心臓がドキドキしてきました。
”もうだめ、出よう・・・”と思ったその時
「パカッ」
もぐり込んだ荷台部分の扉が開いたのです。
その瞬間、いきなり私の頭にカツーン!と固いものが当たりました。
カバーの隙間から一部始終が見えていたのですが、どうやら積み残したワックスを投げ入れたところ、私の頭に命中したようです。
”イテッ”と思わず声を上げそうになるのをグっとこらえたその時、夫の表情が一瞬にして凍りついたのです。
それは10年以上一緒に暮らしてきて、一度も見たこともないような恐怖に戦いた表情でした。
どうやら私の足先が見えたらしく、夫はゆっくりとカバーをつま見上げ、中にいる私と暫らく見つめ合っていました。
そして一言、
「降りろ・・・」
「私も行こうかなーと思って・・・」と渋々荷台から降りた時、夫は”危なかった~”といった表情で大きなため息をついていました。
そそくさと運転席に乗り込み、”ブゥ~ン”と去って行った夫。
後日夫の手帳を見ると、その日の欄には「Only one is best!」と大きく書かれていました。