「17番」と呼ばれた夫

夫が逮捕されたことを知った翌日の昼過ぎ、釈放される予定の警察署へ向かいました。
1階ロビーのベンチに腰掛けている三人の男性が会社の関係者だということが直ぐにわかりました。
その中の一人は、かつての上司でした。
突然の出来事で夫がご迷惑をおかけしたお詫びと休日返上で駆けつけて下さったお礼を言うと、警察署カウンター前のベンチに4人で一列に座りました。
「まさか痴漢じゃないよなぁ・・・」
どこからともなくそんな心の声が聞こえてきそうな空気の中、2時間が経過しました。
担当の職員が近寄り、「渋滞の影響で検察庁からの到着にはもう少し時間がかかりそうです」と言うので、人事部長と広報室の方には先に帰って頂きました。
それから2時間後、ようやく夫が釈放となりロビーに現れたのです。
私達を見つけた夫。
何もなかったかのような表情で近寄り、「どうも御心配をおかけしまして・・・とりあえず外へ出ましょう」と玄関前の花壇の方へ促すのです。
「いったい何があったんだ?」と上司。
「いやー、通勤途中の電車内で揺れに任せてぶつかってくる男がいまして、○○駅に着いた途端『降りろ』と言われてホームに出たら、いきなり両手で肩を突かれたので、お返しに顔を殴ったらそのまま連行されてしまいました。日ごろのジムでのトレーニング成果を試そうとして殴ったら、運悪く相手の口元から出血したので、どちらが悪いかといえば私になってしまったのです。」と面白おかしく説明する夫。
上司から出た大きなため息は”痴漢でなくて良かった~”といったものだと直ぐにわかりました。
安心した様子の上司とは最寄駅で別れ、私達は電車に乗りました。
帰宅途中の電車内、勾留中の食事や護送車内の様子など、楽しそうにキャッキャと語る夫。
留置所内では「17番」と呼ばれていたそうで、確かに翌朝の洗濯物の中にあった見慣れぬタオルの隅には、小さく「17」と書かれていました。
その事件から約2年後、私達に語った夫のこの証言が、真っ赤なウソであることがわかったのです。